「子音をはっきり発音する」とはどういうことか

朝日新聞に「アラジン」初日の劇評を書いた(全文閲覧には無料登録が必要)。幾人かの友人知己から反響があったが、最後の段落で四季の母音法について苦言を呈したことで、ご不快に感じられるのではないか、と内心恐れていた方からも「よくぞ言ってくださった」との言葉をいただけたのはとりわけ嬉しかった。

鋭い指摘もあった。「子音をはっきり発音する四季独特の発声法ゆえに」と書いてあるけれど、劇団四季の発声法は「母音法」と言われているのではないか、「子音をはっきり発音する」とはどういうことか、というものだ。ここは自分でも書きながら、約七〇〇字という字数に収めるのに苦労した箇所だ。結果として言葉足らずになったことは否めない。その際に回答したことを以下に再録し、劇評の補足としたい。本当は七〇〇字で意を達しなければならないのだけれど、修業不足ということで大目に見ていただければありがたい。

母音法について、浅利慶太は以下のように説明しています。

[浅利の知己の音楽家]は、「音」の明晰さは「音量」ではなく「分離」によって生まれると言ったのです。この言葉には大きな刺激を受けました。演劇における台詞にも同じことが言えるのではないかと。そして試行錯誤の結果、「あいうえお」の五つの母音を等間隔に分離して話せば、言葉が明晰に聞こえるとうい結論に達しました。……
他にも幾つかの法則を発見しました。例えば「あしたは雨だ」と言う時、「あしたは」の「は」は「WA」、「雨だ」の「あ」は「A」となり、同じ音ですから重なって聞こえやすい。これを明快にするためには、後ろの「A」の音の共鳴を変化させ、前の音より少し高く発音すれば、分離して聞こえるようになります。これが「同母音共鳴変化の原則」です。
「あしたいく」の「TA」と「Iの場合にも共鳴変化は必要で、この場合は「異母音共鳴変化の原則」となる。また、「行ってくる」「買って来い」などの促音は「ITTE」であって「ITE」ではありません。「いてくる」ではなく「いってくる」と発音するためには、「T」をもう一つ増やし、しかもこれを1つ無声化しなければならない。これが「連子音無声化原則」。「大阪」や「天気予報」は、「おーさか」「天気よほー」というように、しっかり伸ばして発音しないと正しく聞こえません。これを「長音の原則」と言います。他にも、こうした法則をたくさん発見しました。
 これを意識しながら、まず台詞や歌詞を、言葉の土台である「母音」だけで発音し、明晰に母音を分離する感覚を体に入れ込んだ上で、子音に乗せて言葉を発する訓練と技術、これが四季の「母音法」です。

「『ラ・アルプ』特別号 劇団四季創立六十周年に向けて 演出家・浅利慶太インタビュー」6−7頁

私が「子音をはっきり発音する」と書いたのは、ここでいうところの「連子音無声化原則」のことです。「無声化」ですから厳密にいえば「はっきり発音する」わけではないのですが、限られた字数で説明するためにあのような表現になりました。言うまでもなく、ITTEと発音することでITEより一拍遅れます。それが地の台詞の会話でのテンポの悪さの一因になっているわけです。

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